実家のマンションから見えた中国不動産のラストバブル

前書き

みなさん、こんにちは、丘主(おかぬし)です。僕はいつも在日中国人向けに不動産コンサルティングサービスを提供し、ネットでもほとんど中国語のみで日本の不動産事情を発信してきましたが、実際、業務の都合上で中国国内の不動産事情もウォッチしています。(向こうの経済状況や不動産関連の政策によって在日中国人のニーズや予算も影響されているから)

最近3年半ぶりに中国に帰省したとき、ちょうど両親が地元の新築マンションに入居したばかりなので、その物件と周辺もいろいろ見学されてもらいました。その中、再開発によって地元の変貌に驚かされつつ、アフターコロナに地方都市の経済課題や、不動産市場の変化期も身をもって感じてきたので、この機にみなさんにシェアしようかなと思っています。

背景

僕の地元は、中国福建省南平市という地方都市にあり、2021年時点で人口が267万人で、過去10年間はほぼ横ばいだったが、2020年からは減少傾向になっているところだ。

また、一人あたりGDPは2020年時点では1万ドル程度で、日本(約3.9万ドル)と比べるとだいぶ貧しい。

300万人近くある都市は日本から見ると名古屋、福岡のような大都会に見えるかもしれないが、実は中国の行政区画は世界から見ると粒度が荒く、市の面積と人口は日本の数倍程度になるのは通常である。その一方、市と市の間、または市の中に各区の間に広い農地、山林などが挟まれる場合が多く、実際中国の市という概念は日本の「都市圏」と相当していると理解していただけるといいかなと思っている。

市の中心部の様子

自分が生まれ育ったのがこの南平市の延平区という人口が49万人がある区であり、数年前までは市政府所在地だったが、その後市政府は隣の建陽区に移転することで、延平区の経済はそのまま停滞し始めた事情もあった。(とはいえ建陽区も大した発展していないので、当初の移転計画がしくじったのではないかと地元の人がよく言っている)

昨年、両親は老後生活のため、ローンを組んで総額3000万円相当の金額をかけ(内装、家具家電込み)、区の中心部から少し離れたところに今回の新築マンションを購入した。物件は35階建ての29Fにあり、床面積はおよそ92㎡の3LDK+DENである。自分は一人っ子で普段東京に住んでいるため、この物件に入居しているのは両親のみ。

豆知識だが、中国の高層マンションの価格設定として、所在階が高ければ高いほど値段が上がるではなく、ほどの良い中層階のほうが値段が高い。中国人から見れば、高層階はエレベーターの待ち時間が長い、日当たりが良すぎて夏が暑いなどの理由で住みやすさが低下すると思われている。特に最上階は比較的に断熱性が悪く、雨漏りのリスクが高いため、消費者に敬遠される傾向があり、値段もその分安くなる。

室内

中国の新築マンションは日本と違い、ほとんどの場合はスケルトン渡しであり、その後オーナーはご自身で内装業者を探し、内装して入居する流れになる。(最近大都市では、内装済みで引き渡しの物件も出てきたら、全国範囲から見たらやはりスケルトン渡しが主流である)

ちなみにこの内装工事は、昔悪徳業者が多いため、施工不良や夜逃げなどを防ぐ目的と中間マージンを節約する目的で、オーナーが電気工事、水道工事、インテリアなどを別々の業者に分離発注し、自分が事実上現場監督になるケースが多かった。しかし、今回の場合、両親はすでに60代近くになり、体力的に限界を感じたところと、悪徳業者は最近少なくなったところで、人生初めて内装業者に一括発注になった。

内装、家電込みで総額300万円相当のコストをかかった結果は、このような仕上げだ。

玄関

玄関ドアは、インターホン一体型になっており、ハンドルに指紋認証機能が付いているため、よっぽどなことがない限り、ドアの開け閉めには鍵が不要だ。

下駄箱は、壁と一体になった特注品。下のすき間は、あえて普段よく履く靴を収納するように開けているらしい。収納力は抜群。

リビング・ダイニング

中国は、日本より親戚や友達を家に呼んでホームパーティを開催する頻度が高いため、間取り上リビング・ダイニングの面積も大きくなる傾向がある(その一方、浴室・トイレは人より狭いが、、)。また、ベランダはほとんどインナー式のため、2枚目の図のように、ベランダの仕切りを取っ払い、リビングの一部にするのも主流であり、そのおかげでリビングがより一層広く感じる。

また、近年中国は大理石調のタイルが掃除しやすく、耐磨耗であるため、リビングの床材として人気があるらしいので、今回もその素材と採用した。

ダイニングのライト扇風機機能も付いているので、夏の場合は涼しく食事をとれるそうだ。

ダイニングテーブルは、折り畳み式で、来客があるときに一回り大きいテーブルに変身できる。また、中心部にIHコンロが内蔵されており、スープやお酒の温めや、火鍋の加熱に役に立つ。

ベランダ

さきほどの説明通りで、ベランダはほぼリビングと一体になっているが、洗濯物と干し物の機能は外されていない。左側黒い2台はドラム式洗濯機と衣類乾燥機で、「なんで一体型のドラム式洗濯を買わないの?」と両親に聞いてみたら、別々のほうが乾燥の仕上げがよいと教えてくれた。

また右側はもう一台壁掛け式の小型洗濯機があり、ちょっとした洗濯物や、肌着、下着のみの場合はこの洗濯機が便利らしい。

うちの地元はなぜか手洗いのこだわりがまだ残っており、シルクや繊維が繊細な服はこの洗面台(?)で洗濯されている。聞いてみたらこのような洗面台は今時がほとんどないので、特注品として調達してきたらしい。

洗濯物干しは、天井に組み込みタイプで、ボタン一つで降りてくれる(細かい高さ調整もできるらしい)。また、ライトがついているため、夜に物干しのときにも困らない。

ベランダから眺める景色。

※中国は、このように一つの広い敷地に一本の大きい建物を建てるではなく、複数の細長いマンションを同時に建設し、建物の住民同士が同じ管理会社のサービスや共有設備を利用できるようにするのは一般的だ。このような敷地は中国語で「小区」と呼ばれている。

複数の細長い建物にする理由は、できるだけすべての部屋を日当たりのよい、お互いにの生活音に影響されない角部屋にするなんだとか。

浴室・トイレ

中国人はあまり湯舟を使う習慣がおらず、浴室(シャワールーム)・トイレ・脱衣所が一緒になるコンパクトタイプが多い。その一方、オーナーのプライバシーを重視しているため、3LDK以上の間取りだと浴室・トイレ・脱衣所が2か所にすることが多い。(今回撮影したのは来客用で、両親のベッドルームにもう一か所がある)

鏡には、照明機能と温め機能が付いており(左下2つのボタン)、温め機能をオンにすると、たとえシャワーをしても鏡は曇らない。

トイレはTOTO。自動洗浄機能のほか、足元にセンサーも付いているので、人が寄ってくると勝手に蓋を開けてくれる。いちいちかがめてふたを開けなくても済むのは地味に便利。

ベッドルーム・書斎

クロゼットが組み込み型の特注品、ベッドはキングサイズ、ベッドルームにも壁掛け式テレビがあるぐらいかな、それ以外特に面白いところがなさそうで説明は割愛。

キッチン

ごめんなさい、キッチンだけ写真を撮り忘れた、、、簡単に説明すると独立キッチンルームであり(中華料理は脂っこいので、調理中にほかの家具が影響されないため独立キッチンルームが主流)、収納は組み込み式、電子レンジ、オーブンは壁掛け式、コンロ・レンジフード・スチーマーが3点ビルドインタイプになるところかな。

あと、冷蔵庫が日本の2倍ぐらいでっかいのも印象的だった。

ほかの気になるところ

ドアが重くてでっかい。高さはおよそ2.2mで防音性もそれなりに良い。

一方、新築とはいえ、細かいところには施工不良がすでに見えている。最初は自分が見つけて親父伝えたが「まあ細かいところだし、しょうがないよね」と返答。こういう大雑把に使えるなら細かいところは気にしなくてもよいというのは中国人の国民性といえるでしょう。(とはいえ自分はめちゃ気になるが)

共有部

マンションのエントランス。伝統的な木造建物(ホール)のなかは洋風の高層マンションで、外側に発展途上国よくある原付とバイクの群れ、なかなか不思議な組み合わせだよね。

今回の中庭は、中国の江南エリアの園林をイメージにしてデザインされたようだ。地元ではなかなか珍しいパターンかも。ただし、夜は少し暗く、周りにカエルのなき声は人によって少し不気味と感じるかも。

1Fにある中国風デザインのオーナーラウンジ。

地下1階の駐車場からはいる裏口とエレベーター。ドアは顔認識タイプなので鍵は不要。内装工事中の住戸がまだあるので、ドアとエレベーターそれぞれ養生材が張られているが、その仕上げは日本よりだいぶ荒い。

住民専用の地下駐車場。隣に第3期の駐車場・建物はまだ建設中なのでこちらから工事現場が丸見え。工事現場のすぐ隣に住むのは、なかなか日本では見れない風景だね。

不動産のラストバブルか

さって、ここからは少し重い話になると思うが、単刀直入に言うと、僕はこのマンションが同じレベルで現地最後の大型開発で、価格もピークに達した物件ではないかと思っている。

国レベルの不景気

まずマクロの経済環境から説明すると、中国は2019年から2022年後半までにコロナ対策のために、厳しくロックダウン政策が実施されてきた。地元の都市は、幸い感染者数が少なく、ロックダウンはほぼ実施せずに済んだが、国レベルの不景気にはやはり影響されていた。それとロシア・ウクライナ戦争によりエネルギーや資源の高騰、米中関係の悪化により国際貿易の不調、金利上昇により世界範囲の不景気が発生するなどのマイナス要素が加味され、今の中国経済は2000年以来かつてない悪い状況に陥ているでしょう。

先月(2023年4月)最新の統計データによると、中国のCPIはすでに年率0.1%まで下げており(限りなくデフレに近い)、若年層(19歳~24歳)の失業率が20%以上に昇った。また、中国元・ドルの為替レートもつい最近7以下になっていたのも不景気の証拠と言えるでしょう

身の回りの例を挙げると、叔父(母の弟)はバス運送会社を経営していたが、ロックダウンの3年間に売上はほぼ0元になり、貯金と借金を使い切って会社が倒産寸前だった。最近はロックダウン解除でようやく運転再開だが、これまでの損失をいち早くカバーしようとしていくために毎日11時までの激務が続いている。

母も、もともとデベロッパーの監査会社に勤務していたが、最近中国の大手デベロッパーは続々と倒産・不良債務の不祥事に纏られるため、つい勤務先も倒産連鎖に影響され、実質仕事がなくなった状態になっている。

不動産バブルの限界

では、両親が購入したマンションはどういう状況かというと、3期の販売計画までは完売されたが、デベロッパーは2期から「購入者に管理費10年分無料」などの大サービスをしており、実質値下げしている。両親は第1期に購入したので、そういう意味ですでに高値を掴んでしまっている。(中国のデベロッパーは勝手に物件を値下げすると、政府に罰を与えられるので、在庫処分の際に、このように「実質値下げ」をせざるを得ない)

このような「完売」物件の入居率を見てみると、さらに驚くことがある。

検証のため、夜10時ぐらいに建物の外観を撮影してみたのはこの2枚の写真。お察しできたのでしょうか?このまるでゴーストタウンのようなライトの少なさ。

実際両親に原因を尋ねてみると、このマンションを購入したの人はほとんど投資目的と事業協力者なので、入居するには内装しなければならないし、とりあえず住まず、貸さずに放置している。裏を返せば、この層の人たちは世帯当たりの物件数はすでに過剰になっているのではないかと考えられ、これから人口減少のトレンドを合わせると、不動産の価値は下がっていく一方でしょう。

もう一つの論拠は、このベッドルームから見えた大きな空き地だ。父が曰く、これはもともと現地政府が企画し、デベロッパーたちにその使用権を入札してもらい売却しようとするが、なかなか買い手を見つかず放置されていた。これも昔の中国ではなかなか想像できない光景だ。

※中国には、法律上すべての土地の所有権は国にあり、デベロッパーが仕入れ、その後消費者に分譲したのはその土地の70年間の使用権のみ。そのため、民間同士の土地取引はほとんどおらず、その代わりに政府が毎年に一部の所有している土地を指定し、デベロッパーたちにその利用権を競売するルートが主流だった。

テナント募集も難航だ。写真を撮り忘れたが、このマンションの敷地に、実は十数軒の店舗がある。そのほとんどはデベロッパーが所有しており、住民たちの生活利便性を向上するためにテナントを誘致しようとしたが、ご覧の通りの入居率だとさすがに難しいよね。

そのため、テナントの募集条件は今なんと15カ月のフリーレントが付いており、それでようやく半分程度埋まったところだった。

両親と自分の考え方

正直、「しくじったな」というのも両親が認識しているが、老後生活のために購入したので、永住志向だし、住む環境は少なくとも今のところは悪くないし、分散投資しているから最悪ほかの資産はまだあるし、そこまで困っていない。

ただ、これ以上現地の不動産購入はやめようというのは両親と自分の共通認識。実際、先ほどのテナント物件は一部分譲販売もあるが、試算してみたところうまくいっても利回りは2~3%程度で、将来の出口も見えない。ましてや福建省は台湾と近いため、万が一将来戦争に巻き込まれると資産価値はさらに下がるでしょう。

だとすると日本のファミリータイプ分譲マンションのほうが全然良いと今父が考えている。(もちろん、アパートや民泊もいい物件があれば買いたい)

日本の不動産市場はどう影響される?

近年の傾向

まず情報源を説明すると、弊社は外国人向けに日本不動産のコンサルティングサービスを提供しており、日本の不動産購入に興味がある外国人たちが、弊社のブログ、SNSなど経由に問い合わせをする流れになる。その後、弊社は顧客に物件購入の戦略や、気になる物件の分析、また提携建築士、仲介業者、デベロッパーの紹介など、総合的なソリューションを提供するビジネスモデルである。

そのため、日々様々な問い合わせを対応し、情報源として普通の外国人向け仲介業者よりは少し豊富かもしれないので、その業務経験からお話ししよう。

今年に入ると、中国人顧客に一つ大きな変化として、これまで手元の余剰資金で日本の不動産を購入するスタイルから、中国の物件を売却した資金で日本の不動産を購入するスタイルになりつつある。そのため、顧客あたりの予算金額も当然高くなり、従来の1Rマンション投資から、ファミリータイプの分譲マンション、もしくは一棟アパート、一棟マンションに拡大している感覚があった。

一方、在日中国人がマイホーム購入するときにも同じ傾向で、親からの資金援助がある場合に、地元の物件を売却してその資金で頭金を賄う割合が多くなった。ただ、日本の住宅ローンは比較的に利用しやすいため、このようなケースは割合的には投資物件より少なく、マイホーム購入のご予算は劇的な上がったではない。どちらかというと首都圏の不動産価格上昇と合わせたペースだけだと感じている。(ので、それほど影響がでないかと)

もう一つ注目すべきなのは、検討物件の多様化。最近、日本の不動産市場に中国資本の集中と伴い、関連業者(中華系不動産屋)の業務範囲や、手元のビジネスリソースもますます充実してきた。例えば、ホテル物件とホテル管理代行サービスのセット提案や、自社開発した民泊物件やホテル区分所有権の分譲販売、独自な融資ルートなど、今まで外国人事業者・投資家では無縁そうなポートフォリオにもいつの間にか強力なプレイヤーが現れた。

実際、弊社提携している一部の中華系不動産屋は、最近中国人顧客のほか、英語圏(欧米人など)の顧客も増えてきたのようで、実際話を聞いたところ、「英語圏向けの不動産屋(競合相手)はもちろんすでにあるが、融資や専門知識などはうちのほうが有利なので、あえて弊社(担当者は中国人で英語は母国語ではない)を選んで頂いた」という事情が分かった。それほどビジネスリソースが中華系業者に集中していると言えるでしょう。

中国人資本の特徴

中国人の物件選びは日本人より保守的であるのは特徴で、例えば下記のような物件はあまり手を出さないようにしている。

  • 旧耐震(地震が怖いから)
  • 郊外や交通利便性が比較的に悪いところ(将来の資産価値に気になる。またマイホームの場合友達と離れてしまう)
  • 事故物件や、お墓・斎場・葬儀屋の近くにある物件(縁起が悪い)
  • 東京都や首都圏以外など(関西だと大阪市以外など)、自分の知らないエリア(土地柄がないから)

一方、物件の特徴(アピールポイント)がわかりやすい物件だと人気がある傾向で、たとえ価格が高く・利回りが低くてもいい属性の物件が売れやすい。

  • スカイツリー・東京タワー・富士山などのランドマークが見えるところ
  • 有名大学の近くにあるところ
  • 外観がきれいで、南向き、築浅の物件
  • 大久保、池袋、上野、元町中華街、西川口など中国人がたくさん住んでいるところ

そのため、中国資本が注目しているエリアを避けて投資したい方や、逆に将来中国人に売却する出口を考えたい方は、このような特徴と生かして物件選びの際に参考していただけるとよいかと思っている。

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